万葉集の植物たち

浜北万葉の森公園が好きです。万葉集の植物について書いていきます。

ノキシノブ(軒忍)

桜の木についたノキシノブ。

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シダの仲間。細かい根を出して樹皮などに着生する着生植物。

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細く伸びているのは葉。

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葉の裏には胞子嚢が一列に並んでいる。

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ノキシノブという名前の由来は、昔の家では古くなると軒によくこの植物がついたから。万葉集では「しだくさ(子太草)」。

わが屋戸の軒のしだ草生ひたれど恋忘草(こひわすれぐさ)見るに生ひなく

             巻11-2475

(写真は万葉の森公園)

ウメ(梅)

春の到来を告げる花。良い香りがするのも魅力。

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日本には中国から渡来したらしい。一説には遣唐使が中国から持って来たという。

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万葉集で多く詠われている植物。

酒坏(さかづき)に梅の花浮け思ふどち飲みての後は散りぬともよし

        大伴坂上郎女 巻8-1656

酒杯に梅の花を浮かべて親しい者同士で飲んだ後は、散ってしまってもかまいませんよ。

(写真は万葉の森公園)

 

 

 

ミツマタ(三椏)

ミツマタの黄色い花が咲き出している。

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ミツマタは早春に咲くジンチョウゲ科の花。葉が出る前この時期から花が咲く。名前の由来は枝が必ず三つに(三又に)分かれるから。

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ミツマタ万葉集の「さきくさ(三枝)」の候補。他にはジンチョウゲフクジュソウなどが候補になっている。 (写真は万葉の森公園)

春さればまづ三枝(さきくさ)の幸(さき)くあらば

後にも逢はむな恋ひそ吾妹(わぎも)

                                  巻10-1895

春が来て真っ先に咲く三枝のように幸くあったら(無事でいたら)また後で逢うこともあるでしょう。そんなに恋こがれないでください、わたしの愛しい人よ。

ヒカゲノカズラ(日蔭葛)

万葉の森公園のヒカゲノカズラ。

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地面を這ってぐんぐんのびている。冬でも枯れないで、鮮やかな緑のまま。

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さらに刈り取ったあと数ヶ月間も鮮やかな緑のまま。そのためか古代から神聖な植物とされ、神事などの際に髪に挿したり、輪にして頭に飾ったりしたという。

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万葉集では「ひかげ」。

あしひきの山下日蔭かづらける上にやさらに梅をしのはむ  大伴家持  巻19-4278

 

イスノキ(柞)と虫こぶ

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万葉の森公園のイスノキにできた虫こぶ(虫えい)。イスノキではアブラムシの刺激で葉に虫こぶができる。

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これが成長すると最初の写真のような虫こぶになる。これはちょっと小さめ。f:id:manyokusaki:20220208150428j:image

アブラムシの出て行った後には直径5ミリくらいの穴ができ、そこに唇をあてて吹くと「ヒュー」と笛のように音が出る。そのためイスノキには「ヒョンノキ」とか「ヒョウノキ」という別名がある。森町の小国神社には大きなイスノキがあって御神木とされ、御守りが作られている。近くのお店にはお饅頭もありますよ。

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イスノキはコナラなどと並んで万葉集の「ははそ」の候補。

山科の石田(いはた)の小野の柞原(ははそはら)見つつか君が山路越ゆらむ

        藤原宇合  巻9-1730

「山科の石田の野の柞の原を見ながら、あなたは今頃山道をこえているのでしょうか。」

 

アセビ(馬酔木)

f:id:manyokusaki:20220206154408j:imageアセビが咲き出した。

f:id:manyokusaki:20220206154350j:imageこれから5月ぐらいまで花を増やして咲き続ける。風に吹かれるといっぱいついた花が擦れ合ってシャラシャラと音を立てるような気がして好きだ。木全体に毒があり口に入れると酔ったように痺れるから「馬酔木」という漢字があてられているらしい。近年まで葉を煎じた液を虫除けとして田に撒いたりしたという。万葉集では「あしび」。

池水に影さへ見えて咲きにほふ馬酔木の花を袖にこき入れな  大伴家持 巻20-4512

 (写真は万葉の森公園)

 

 

カンアオイ(寒葵)

冬も枯れないウマノスズクサ科の植物 カンアオイ万葉集の「あふひ」の候補。

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花は葉の下、地面に接して咲くので見つけにくい。葉をかき分けるようにすると見ることができる。

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梨棗黍に粟嗣ぎ延(は)ふ田葛(くず)の後も逢はむと葵花咲く        巻16-3834